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名古屋地方裁判所 昭和35年(ワ)1779号 判決 1963年8月31日

理由

進んで反訴につき案ずると、反訴原告(被告)主張の反訴請求の原因たる事実中反訴原告が昭和三十五年九月二十八日反訴被告に対し前記本訴請求の原因たる事実における(一)の約束手形金金五十万円を支払つたことは当事者間に争のないところである。而して前記本訴における請求の原因たる事実と反訴原告(被告)主張の抗弁について説示したように右約束手形金は前同(二)、(三)の各約束手形金におけると同様反訴原告は訴外井上慶一に対してこれを支払うべき義務なく、反訴原告の訴外井上慶一に対する右人的抗弁の存する事情を知つて右(一)の約束手形の所持人となつた反訴被告に対しても所謂悪意の取得者として右の抗弁をもつて対抗しうるばかりでなく寧ろ反訴被告は反訴原告に対しその善意に乗じ敢て自己に代りて火中の栗を拾わしめ自己の危険を転嫁せる不法不徳義を犯せるものというべく、前記本訴における抗弁事実認定に供した各証拠によると反訴原告は右乙第五号証所定の受渡期限である昭和三十五年九月二十日を一週間余経過した後で未だ買受材木も殆んど入手していなかつたので、右約束手形金の支払に難色を示したるも木材が出るとの話もあり反訴被告の懇望により尚買受木材の入手を期待しその前提条件の下に一応右(一)の約束手形金を支払いたるものにして反訴被告においても前記各説示の如く当然その情を諒知の上これを受領せることが認められ、結局前記各説示の如く反訴原告に右木材の入手なかりし以上反訴被告においても右各説示の理由により右約束手形金を不当に利得したことに帰するものというべく、反訴被告の提出援用にかかる証拠中右認定に反する部分は反訴原告の提出援用にかかる証拠に対比して措信し難く、よつて反訴被告は反訴原告に対し右不当利得金金五十万円及び右反訴状が被告に到達した日の翌日であることが記録上明らかな昭和三十六年二月十七日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を返還支払うべき義務のあることが明らかであるので、反訴原告の反訴請求を右の限度において正当として認容し、その余の請求を失当として棄却。

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